鈍感な彼氏にお仕置きしようとして失敗しました

彼氏がモテていたら、自慢に思う人と腹立たしく思う人がいるという。
私こと綱木つなき雛は大変心が狭いので、後者だ。

彼の行きつけの中華料理屋さんでバイトしている女の子が、同じ大学の同じ学部だった。コースは違うからたまに同じ講義を受けるくらいの、顔見知り未満の存在。私はその子のことを知っているけど、その子は私のことを知らない。だから、私が近くにいるのに、その子は講義の休憩時間に友達に話し始めた。

「バイト先の常連さんで気になる人がいてね…〇〇大学の薬学部の人らしいんだけど、真面目で落ち着いた雰囲気のイケメンなの」
「へー」

直感した。これは彼のことだなと。
まあ、好きになるだけなら自由なんだけど…と、私は平静を装う。

「来てくれるのが私のシフトと重なることが多いんだよね」
「それはチャンスだね」

私と彼は大学は違うけど、簡単に自転車で行き来できるくらい距離は近い。だから一緒にお昼を食べることもしばしば。でもお互いに友達との交流もあるから、火曜日はお昼別って決めてるんだよね。いつも火曜日にあの店に行ってるなら、シフトが重なる人は重なるはず。

「気のせいだとは思うんだけど、いつも私に近い席に座ってる気がする」
「脈あるかもね!」

業務上レジの近くに待機してるんですよね。彼の撮った店の写真に写り込んでいましたので知っています。それで、彼が一番近くの席を選ぶと。でもそれは仕方がないんです。彼と来店時間が被っている他の常連さんを見てあげてください。いつも騒がしい体育会系グループがいませんか?彼はそのグループから遠い席を選んでいるだけです。ちょっとノリが苦手みたいです。それでもお店に行きたいのだから、お店の皆さんは味を誇ってください。

「品がよくて優しい人なんだよね」

「いいじゃん優良物件」

ええ、それは否定しません。ただ、前述の騒がしい体育会系グループが同じ時間に来るのであれば、より一層そう見えることでしょう。

「もしかしたら高乃宮たかのみやグループの御曹司なのかな?この前友達に高乃宮って呼ばれていたんだよね」
「え、そうだったらすごいじゃない」
「でも、御曹司が安くてうまい町中華におひとり様で来ないと思うから、さすがにそれはないよねーって同僚と話してたとこ」

…あなたが冷静さが残っている人でまだよかったです。世の中は話が通じない人がいますから。
高乃宮は確かに多い苗字ではないですからね。その通り、親戚です。その謎は調べてみるとわかります、高乃宮グループの創業者って7人きょうだいなんです。一族だけで結構な人数がいます。親族全員が関連会社の重役でお金持ちなんてことはなく、彼の家庭は普通です。

「声かけてみようかなー」

いきなり声をかけたりしたら怖がって逃げますよ。華麗なる親戚がいるおかげで中学のときにストーカーされてたことがあるそうなので、よく知らない人への警戒心は強めです。話が通じない人というのはそいつのことです。私が警戒されなかったのは祖母同士が仲良しで、家族ぐるみの友達枠から入ったからです。ええ、完全に運です。でも、運も実力のうちということにしときましょう。

というか、怖がらせるなんて私がさせませんけどね!

次の火曜日、私は彼がそのお気に入りのお店にいることを確認してから、押しかけた。

「秀くん!」

私が声をかけると、

「あ、雛!」

と、彼がぱっと顔を輝かせてくれる。
嬉しい。
高校時代からの付き合いの私の彼、高乃宮秀くん。
「ちょっと二人で話したいことがあるんだけど、ご飯まだかかりそう…?」
「大丈夫、すぐ食べ終わるから」
「……辛いのを早く食べて平気なの?」
「平気だけど?というかそんな激辛ってわけじゃないけど、本当に辛いのダメなんだな」
「うん、ごめんね、一緒に来られなくて」

ここは彼のお気に入りの町中華、四川料理のお店。辛い物が苦手な私は来ないから、いつも彼一人か友人と来店する。だから、お店の人が私の存在を知るのはこれが初めて。
秀くんの『彼女』の私を。

「唐辛子の煙で具合悪くなったりしないか?」

口ではそう言いつつも、本当に警戒しているのは唐辛子ではない。秀くんは店の奥にいる体育会系グループの方を明らかに気にしている。私が声をかけられないかと思っているのね…確かにテンション高い集団のようだけど、さすがに大学関係者がウロウロしている真昼の食堂でそんな見境なしの行動しないでしょう……それなのに自分が店員の女の子に声をかけられるという事態は全く想定してないんだから、鈍感だよね…。
「うーん、心配かけちゃうなら外で待ってるね」
「外で……わかった、なるべく早く食べ終わる」
あの子の顔は見なかった。マウント取ってひどい彼女だな、って思われただろうから。大学で顔を合わせるけど、これからのことも敢えて考えないようにした。

秀くんの家に二人で戻った。
二人とも実家から大学に通っているのだけど、秀くんのご両親は仕事の都合で夜遅くまで戻ってこない。うちは祖母が同居なので(秀くんの家は近距離別居だ)、日中二人きりになるためには秀くんの部屋に行くことになる。
「好かれていたって、全然気づかなかったな…普通に店員と客のやりとりしかしてなかったし」
「うん、それについては疑ってない」
私はそう返す。あの子もそこまで押せ押せの肉食タイプじゃなさそうだし、熱い視線を送るくらいしかしていなかっただろう。それだとこの鈍い彼は気づけない。彼がどれくらい鈍いかというと、
「自分の時だけ盛りが多くなるとかおまけがつくとか、そういうのもなかったし」
「それやってる人いたら随分古典的なアプローチだと思うよ…」
このくらいでないと気づけないくらい。

「でも雛が嫉妬してくれるの嬉しいな…高校の時は結構塩対応だったから進歩したよなぁ…束縛とかむしろ憧れだった、雛の場合ちょっと重いくらいで丁度よくなるんじゃないかな」
「憧れなんだ?」
彼が鈍いのは私に対してもそうなので、私はそちら方面…恋愛の負の感情があまりないと思っているらしい。私は私なりに頑張っているつもりなのだが、高校時代に塩対応だったのは事実だから仕方ない(優等生という秀くんの評価を落としたくなくて、清く正しい交際をしようとしていた高校生時代の私…秀くんが望んだわけじゃないから、完全に自己満足だった)。

「ちょっと待ってて、歯を磨くから」
秀くんは洗面所で歯磨きを始める。
「……」
辛いもの食べた後で辛いのがダメな私にキスをするのはダメだって思ってるから歯磨きを……この後起こることを想像してたら頬が熱い。
でも、私は秀くんのちょっとした行動で今もこうやって恥ずかしくなったり緊張したり嫉妬したりしているのに、向こうは気づかずにいつも通りにしているのがなんかちょっと悔しくなってきた。

こうなったら、ちょっとだけ懲らしめてやろう。

ついでに私の愛の重さもわからせてやる!

歯磨きを終えた秀くんに部屋へと導かれた。ドアが閉まった途端当たり前のように口づけてきたので、私はいつもと違って積極的にそれに応じる。

「っ!?」
あ、びっくりしてる。ちょっと嬉しい。
「ん…」
「……」
体を密着させて何回も唇を吸っていたら、少しだけ秀くんの腰が引けてきた。反応しちゃったんだ…そうだよね、いつもこんなに長いキスをするのは体を重ねる前くらいだから。

「今日は私が秀くんを泣かせてやる」

「……はい?」

喜ぶでもなく嫌がるでもなく、聞き返された。

ひとまずいつもされてることをやり返してやればいいよね。そう考えた私は、カーテンを閉めて秀くんをベッドに押し倒し…うまく押し倒せなかったので、向こうが抱きとめてから後ろに倒れ込むみたいな形になった。
「脱がせるからね」
「あ、うん」
そう言ってシャツに手をかける。細身だけど筋肉がついている秀くんの体が露わになった。思わず見惚れてしまうけど、今日はぼうっとしている場合ではない。シャツを引っ張り上げて、裏返ったのも直さずにベッドの下に落とす。秀くんはさりげなく手を上にあげて、かなり脱がされるのに協力的だった。これ、脱がせてるって言えるのかな…何か違う気がする。

次は私が脱ぐ番。こういうものは勢いだと手早く脱ぎ捨てて下着姿になる。秀くんは喜ぶというよりもぽかんとしていた。
次は秀くんの下を脱がせないと…秀くんは伸縮性のないデニムという一番脱がせにくそうなものを着ている。何てタイミングが悪い。ボタンを外すだけでも生地が固くてやりにくい。
「いや…意外と豪快に脱ぐね」
「それくらいの度胸がないと、秀くんを泣かせることなんてできないから」
「雛の場合自分から脱いでくれるだけでも貴重だし感動で泣くよ」
「泣かすってそっちじゃないから!お仕置きして、ごめんなさいって言わせる方の泣かせるだから!」
あまりに私がもたもたしているものだから、ボケてるのか本気なのか判断しづらいことを言われてしまう。結局こっちを脱がせるのもかなり協力してもらうことになってしまった。
「雛、大丈夫か?」
「大丈夫だし、それよりも自分の心配しておいて」
「うん…?」
いつもは完全に任せきりのされるがままになっているから、突然こっちが優位になろうとしてもうまくいかないのは当たり前。あまりに受け身すぎるのはよくないな…と、普段の態度を反省する。
その次に自分が下着を脱ごうとすると、
「脱がしちゃだめ?」
と、秀くんから訊かれた。
「だめ」
私はぴしゃりと断ると、自分でブラを外してショーツも脱いでしまった。してもらっている時と違ってまだ身体があまり熱を持っていないから、ちょっと肌寒い。一瞬だけ冷静になって勢いを忘れそうになったけど、秀くんの方を見ると彼の分身はすっかり大きくなって下着を押し上げていて、窮屈そうだった。布をおろすと勢いよく飛び出してきて、ほんの少しだけ私の奥に熱が生まれた。

えーと、泣かせるんだとすればこれを弄ったほうがいいよね。お試し程度だけど、したことはあるから大丈夫、できるはずだ。
私はまず胸で挟んでみた。ふにゅっと。…うん、あまり反応がない。私の胸は大きくも小さくもない凡庸な胸だから期待はしてなかった。
次に手で持って扱いてみた。
「雛…」
息が荒くなって少し気持ちよさそうだけど、なかなかそこから進まない。どうしてだろう。ここで限界、ごめんなさい許して、ってなると思っていたのに…目論見が外れた。
こうなったら口で咥え……ようと思ったんだけど。
「おっきい…」
目の前には、さっき私が無計画にいじくったせいで、かなり硬く太くなってしまったモノ。これを咥えたら顎が外れちゃうのではないだろうか…というか間違えて噛んじゃったりしたら大惨事だよね?泣かせたいけど傷めつけることはしたくないし…日和ってしまった私は、先をちょっと舐めたり側面にちゅっとキスをしたりしてみる。
「ん…」
秀くんの方はやっぱり気持ちよさそうではあるんだけど、泣くとは程遠い。手や口を動かすのを止めてしまうと真顔になるし。もしかしてあまり好きではないのかな……確かに秀くんはあまりこういうことを『やって』って言ってこないんだよね。快感はあるけど、気分的に乗らないのかもしれない。好きだったら普段からもっと頼まれてるはずだよね。失敗だったかな…。

私は少し考えて、私がリードして最後までしないとダメなのだという結論に辿り着いた。
「秀くん、挿れるね」
「え…本気か?」
秀くんが驚いている間に、準備を進める。
「ゴムつけるね」
これだけはすんなりと終わった。普段からお願いされることがあるから。
「…雛、ちゃんとできるか?」
「…できる」

心配されている時点で私の挑戦は失敗に終わっているのだが、認めるのが悔しいので無理矢理そのまま続ける。上に跨って腰を落とせば…落とせば…
「…っ」
あ、秀くん気持ちよさそうだ、これなら何とか…と思ったのも束の間。ぷちゅっと音を立てて先端が滑った。
「ひゃうっ」
ビリッと痺れたような感覚が身体を駆け巡り、思わず声が出てしまう。

そう、私がいつも受け身なのは、秀くんにちょっと触られたり揉まれたりするだけでものすごく感じて何も抵抗できなくなってしまう…敏感体質だからだ。

秀くんを感じさせつつ自分は我を忘れない程度に、というのを意識するとどうしても緊張してしまってうまくいかない。上に乗ったことはあるけどいつもリードしているのは秀くんだから、そもそもうまく挿れられない。何度もやり直す。
「ん、ふっ…あ……!ま、まって、次はうまく…」
「ひーなー…降参だから俺から挿れさせて…」
秀くんの焦れた声。ちょっと計画とは違ったけど失敗して結果オーライかもしれない。
「ま、まだ泣くまで我慢させるんだから…んっ…なんでできないのぉ……」
あとはもうちょっと頑張って、ごめんなさいさせてやるだけだ。くちゅくちゅと水音を立てて入口のあたりに擦りつけていたら、
「もう限界だ、ごめん雛」
と、逆ギレのような謝罪の言葉が聞こえた。
それと共に、
「あぅっ…!!」
秘核を指の腹で撫でられて、電流が走った。
「我慢もおあずけもすっごいつらいけど、雛が気持ちいい顔してるのを見られないのが一番つらいんだ」
「ま、待って!今日は私が泣かす側だって…あっ!」
「雛、緊張してガチガチだからうまく入らないんだよ」
そう言いながら私の首筋を吸う秀くん。
「それはぁ…ん、やだぁ…今日は私がするの…いやぁ、はあ…っ」
耳を舐められて痺れが走り、体の力が抜けてゆく。
「いや、現に泣かされかけてたよ、いっぱいしてもらったし、入らないのがもどかしくて結局我慢できなくてこうしちゃったわけで」
「鈍い秀くんをお仕置きしたかったのに…」
「うん、ごめん…全然気づかなくて、雛は不快だったよな」
「私も重いしヤキモチ焼くし性欲もあるんだって教えたかったのに…」
「…うん、それは伝わったよ、ちゃんと」
「やぁ…そこ、吸わないでぇ…」
あっという間に形勢逆転してしまった。

こうなったらもう私は啼かされるしかなくなる。上になった秀くんを見上げながら、私は敗北を悟った。
「私も秀くんが気持ちよくなってるの見たかったのに…」
そう言って悔しがると、秀くんは意外そうな顔をする。
「え、いつも気持ちいいしそんなに余裕があるわけでもない……」
「…だって、いつも私ばかりで…」
「そっか、雛から『見えてない』のか…手慣れているみたいで嫌だったのなら、本当にごめん」
「っあっ…!」
腰を引き寄せられて奥まで貫かれると、私の目の前が真っ白になる。またイかされてしまった。
「く…」
秀くんが動きを止める。いつもだったら続けざまに奥をぐりぐりと攻められて何度も絶頂してしまうけど、今日はそうじゃなかった。
「秀、くん…」
「……暴発寸前だった…ほら、やっぱり泣かされかけてるよ」
さっきと変わって浅いところでゆるゆると腰を動かしながらそう言う秀くん。
「気持ちよくなってほしいのに…だめ…?」
そうお願いしてみると、
「…あんまり早いと情けないから、いつも先に雛をぐずぐずにしたくて、つい強引に進めてしまって…」
と、ちょっと恥ずかしそうな声で秀くんが言う。
「え…と」
「今まで余裕があるように見えてたのは、雛が敏感なことの恩恵を受けてたただけ…雛がいいなら、情けないところもきちんと見せるよ」
頭がふわふわしてまとまらないけど、つまり私ばかりが気持ちよくさせられているというわけじゃなくて、秀くんも同じだったってことでいいのかな。
「よかった…」
「…じゃあ雛、早速だけど情けないところ見せるよ?」
「…え?」
「一度出すから、雛もちょっとだけイッて」
そう言って秀くんが胸の頂を口に含み、歯を立てた。
「ふあっ…!!」
また体に電流が走って、反射的にナカに入っている秀くんのモノをきゅうっと締めつける。
「っ…」
秀くんのがナカでビクビクと跳ねる。あ、気持ちよくなってくれてるんだ、出してくれてるんだと思うと嬉しくなって、私もまた達してしまった。

「秀くん……」
少し波が落ち着いた後に呼んでみると、
「抜かずにそのまま2回目できるようになればいいのにな…」
と秀くんは呟いて、一度私から出て行った。
手早くゴムを外して始末する…のかと思いきや、交換してすぐにまたナカに戻ってくる。
「え、あ、ひぁっ」
「雛に誘ってもらえて嬉しいのと焦らされたのとでなかなかおさまりそうにないから、先に謝っておく」
「え…」
「立てなくなるまですると思う、ごめんなさい」
ごめんなさいって言ってるけど、それだと泣かされるのは私の方じゃない!?
「や、あ、ダメだって、ば、そんな…!」
また秀くんが動き始める。ゆっくりした動きなのに、敏感な私の身体はすぐに反応して彼をもっと求めてしまう。
「ひーなー、すっごく可愛い」
「だ、ひゃ、めぇ……」

何でお仕置きできるだなんて思っていたんだろう、私は。思い上がりもいいとこだ。

私はそれから夕方を過ぎて夜になるまでずっとずーっと、愛しい彼に啼かされ続けたのだった…。

□■□

雛が感じやすいということに気づいたのは、身体を重ねるようになって1年ほど経ってからだ。雛は初めての彼女で、それまでは未経験どころかそちらの話題を避けていたくらいの俺にそんな技量があるはずがないのに、雛はものすごく感じて可愛く啼いてくれる。自分たちはよほど体の相性がいいのだろうと浮かれたこともあったが、よく考えたら雛は辛いものが苦手だしくすぐったいのにも弱いので、触覚が敏感なのだろうという結論に至った。ある種の才能なのかもしれない…けどまあ、それは俺だけが知っていればいいことだし、今後も知る者は現れないだろう。一生俺だけの雛だし。本当なら今すぐ結婚してナカに出しまくって孕ませたい。学生の身なのでゴム越しだけど、果てるときは雛のナカで果てて自分を納得させている。雛の体にかけるのも終わったら後悔したのでほとんどやらなくなった。どうしても仕方ないあの薄い皮膜以外の隔たりは要らない。
自分だって余裕がある方ではないが、感じやすい雛は俺よりもいっぱいいっぱいで、終わったら疲れて気絶したように眠ってしまう。雛から誘ってくることは無いに等しいけど、あれだけへとへとになるんだったらなかなかする気になれないのも当然だと思う。だからいつも俺の方から頑張って手を尽くしてそういう雰囲気に持って行く。
雛も意識がふわふわになる前は嬉しそうにしてくれているし、『するのは好き』『嬉しい』と言ってくれたこともある。いつも俺からばかり求めているけど、雛の気持ちは伝わっている。

そんな雛が、今日は珍しく自分から迫ってきた。同じ学部の子が俺のことを好きになったとかで嫉妬したとか…え、押し倒してくれるのか?脱いでくれるのか!?こんな美味しい思いをしてもいいのか!?!?
でも慣れない雛は当然ながらもたついてオロオロと困ってるし、感じすぎないように意識しすぎて緊張してるし、見ているこっちがつらい。ご奉仕されてる時も無理をしているのが丸わかりでつい真顔になってしまう。わざとやってないのは明らかだけど、先っぽだけちゅぷちゅぷと入るか入らないかのところで往復してて、弱い刺激がもどかしい。うう、雛の狙い通りに本当にこのままだと泣かされる。
ごめんなさいと謝って、俺は雛を逆に押し倒してようやく雛のナカで果てるという本懐を遂げたのだった。

……で。俺の分身は一度果ててもまだ足りないとしっかり自己主張している。さっきの触覚的な刺激はもどかしいものだったけど、俺の上に跨って挿れようとする雛の姿という視覚的な刺激が強すぎた。1回で終われるはずがない。
それに心のどこかで悪魔が囁くのだ。雛が嫉妬する暇もないほど俺の愛の重さをたっぷりとわからせてやれ、と。雛は俺のことを鈍感だと言うけれど、雛だって大概だと思う。こんなに重い愛をぶつけているのに、俺の傍で笑っているのだから。

「立てなくなるまですると思う、ごめんなさい」
「や、あ、ダメだって、ば、そんな…!」
先に謝って、ゴムを取り替えてからまた挿れる。
「雛、すっごく可愛い」
「だ、ひゃ、めぇ……」
感じやすい雛は挿れただけでイッて、俺に強くしがみついてくる。こんな可愛い彼女をたっぷり堪能できるなんて幸せすぎる。今日は午後の予定はないから、このまま行けるところまで行かせてもらう。雛とベッドで裸で抱き合ってとろっとろになって…結婚したらこれが毎晩…はさすがに無理かもしれないけど今より圧倒的に増える、最高だろ…楽しみすぎて待ちきれない。
雛がイって落ち着いたあと、尋ねてみる。
「今度はじっくりできると思うけど…雛はどうしたい?」
「よくわからない…でも…」
「ん?」
「さっきうまく入らなかったから……奥で繋がってるの、嬉しい……」
「……!」
危なかった、なけなしの理性が吹き飛ぶところだった。語尾にハートマークがついてるってくらい甘い声が腰にくる。
「あのね…いつも秀くんに任せっぱなしなのはダメだなって思ったの……」
どうやら積極モードは継続しているらしい。
「…じゃあ、どうする?」
「…こうする」
そう言って雛はキスしてきた。ちゅ、ちゅ、と何度も口づけてくる。それなのに敏感だから、舌を絡ませたらすぐに反応して身をよじる。俺の彼女は可愛いがすぎる。
「積極的にしてくれるの嬉しい、これからはこうしてくれる?」
「い、いつもするのは、無理……だって、気持ちよくなりすぎちゃうから…」
涙目で頬を赤らめる雛の顔に興奮して、余裕がまたどこかに行ってしまった。覆いをつけた自身は痛いほどに張り詰めている。
「雛、動いて」
「ん、あ…やっ…!だ…め!」
「…っ」
ダメと言いながら雛が動いてくれたおかげで、いつもより深く入った気がする。子宮口に先が当たって、これ以上ない程に密着したのがわかる。この薄い膜がなければどんなにいいかとつい考える。
「ぁ……!!」
雛が背を反らして絶頂を迎えた。ナカがきゅうきゅうときつく締め付けてくる。
「…」
息を吐いて波をやり過ごす。
「秀く…ここ、おかしくなっちゃうのぉ…」
半泣きで訴える雛。
「俺も、おかしくなりそうだ…」
じっくりしようと思ってたのに、次第に腰を打ちつけるペースが上がっていく。全然我慢がきかない。雛が俺のツボを押さえられるようになった日には、本気で泣かされるんだろうな。
「あ、あ…っ」
波が引く前にまた新しい波が来たらしい雛が、身体をビクビク痙攣させて達する。俺も限界で、雛の最奥に押しつけて昇り詰める。ゴム越しに劣情をたっぷりと吐き出して、果てた。

何度も達した雛は疲れ果てて、眠りに落ちてゆく。後始末をしてから、雛を抱きしめて俺もひと眠りすることにした。起きたらまたするかもしれないけど、そこは誘ったんだから諦めてほしいな…。雛の愛情がちょっと重くなったってことが嬉しくてたまらないので、当面の間俺は浮かれることだろう。夜が来たら、うちの両親を丸め込んで雛を部屋に泊めよう。こんなへろへろで帰すわけにはいかないし。

もう一度謝っておこう。ごめん、雛。

□■□

お仕置きに失敗したどころか秀くんに火をつけてしまったあの日は、いつもの何倍も激しく抱かれて立てなくなり、そのまま強制的にお泊り。翌日も腰が痛いと嘆きながら過ごす羽目になった。

そして後日。

「この前話してた〇〇大学の薬学部の人だけど」
「御曹司の人?」
「御曹司かはわからなかったけど、彼女がいることはわかった」

四川料理店の店員の女の子…名前は楠見さんというらしい…が話している。こちらを一度だけチラッと見てから、話に戻る。『あの子が彼女なんだよー』と言いふらしたり、大げさに騒いだりするようなことはしないんだね。楠見さん、結構いい人だ。

「そうなんだ、やっぱり良さげな人は彼女いるんだねー、間に入り込めないくらいうまくいってる感じだったの?」
「うん、彼女が目の前に現れた途端にぱあーって表情が輝いてたから、相当仲いいんだと思うよ」

めちゃくちゃ見られてたね、秀くん…というか第三者に改めて言われると恥ずかしいな…。

「へー、尻尾を振るわんこみたいだね…犬系男子ってこと?」
「犬系とは違うと思うよ、人懐っこいんでしょ犬系って…彼女が来るまで真面目でお堅い人ってイメージだったし」
「じゃあ、犬は犬でも飼い主以外には懐かない忠犬だったってことだ?つまり大企業のエリートが奥さんに家でこっそり甘えてたり、実は尻に敷かれてたりするみたいな…!」
「えー、あー、うん、そこまでとは言ってないけど…」

テンション高いお友達を止めつつちらちらとこっちを見てくる楠見さん。気まずいよね。ごめん。でも、秀くんは束縛されたいと口にしてたからお友達の言うこともあながち間違いではありません。忠犬系か。言い得て妙だ。

「じゃあ、別の人探してみる?」
「そーだね、子供っぽくない落ち着いた雰囲気の人がいたらいいんだけど」
「大人っぽい人がいいならOBの人でいい人を探した方が早いんじゃない?先輩に紹介してもらったら?」
「それもそうだね」

そう言って彼女たちの話題はサークルの飲み会へと移っていった。

どうやら私は彼を尻に敷いてるものと思われたようだ。うん、嫉妬してお店に殴り込みかけたんだから反論のしようがありません。というか、楠見さん、話のわかりそうな人だったのに勝手に敵視してすみませんでした。

ふと、スマホのバイブレーションが鳴る。

『ドラッグストア行って沢山買ってきたから、安心して来ていいよ』

と秀くんからメッセージが届いた。

何を買ったのかは明白で、どうやら今日も私は啼かされる運命のようだ。あの日は夜7時頃まで続いて、疲労困憊でリビングのソファーで休んでいたら9時頃に帰ってきた秀くんのご両親に心配されて、めちゃくちゃ恥ずかしかった。

『今日は泊まれないからね』

そう返しておいたけどどうなることやら…。でも、燃料を投下したのだから、これは私の責任。

忠犬?尻に敷いてる?誰のことだろうね、ほんと……。

フレーバーウォーターで喉を潤しながら、色々と反省をする私であった。